電話の向こう側で、すべてがつながった
電話の向こう側で
義母と会った、その日のうちだった。
今度は、妻の弟から連絡が入った。銀行での一件のあと、念のために登録しておいた番号だった。
画面に表示された名前を見た瞬間、胸の奥が、わずかにざわついた。
電話に出て、問いただすこともできたはずだった。なぜ私になりきって対応したのか。誰の指示だったのか。聞くべき言葉はいくつも浮かんだ。
だが、その時の私は、言葉を向けるだけの気持ちが追いついていなかった。
状況を十分に理解しきれないまま、感情だけが先に立ってしまいそうだった。自分でも抑えがきかなくなる予感があり、その電話には出なかった。
ほどなくして、今度は義母から電話がかかってきた。弟からの着信の直後だったこともあり、その流れで、すべてを察したわけではない。
ただ、はっきりと残ったのは、私の知らないところで、何かが行われていたのだろう、という感覚だった。
明かされた「説明」
電話口で、義母は静かに語り始めた。
妻に頼まれて、弟が私になりきって銀行の対応をしていたのだという。積立金を引き出す際、本人確認の電話に応じていたのも弟だった、と。
その説明を聞いても、すぐに納得できたわけではなかった。
だが、銀行で感じた違和感。知らない電話番号、見覚えのない手続き、形式上は問題がないとされた対応。それらが、一本の線で静かにつながっていった。
義母は続けて言った。
私が「警察に相談するつもりだ」と話していると聞き、心配になったのだと。だから、弟に連絡をしたのだ、と。
正直に言えば、その時点で、警察や弁護士に本気で相談する覚悟が固まっていたわけではない。
だが、積み重なってきた混乱と怒りが、言葉を強くしていた。冷静さを保とうとしながらも、感情が前に出てしまった部分は否定できない。
私は義母に、銀行で起きたことについて、すでに多くを把握していると伝えた。
すべてを理解しているわけではない。だが、もう何も知らないままでいるつもりはなかった。
なぜ、そんなことをしたのか。
私の見えないところで、あなたたちは何をしていたのか。
そう問いかけても、義母は「自分は何も知らなかった」と繰り返すばかりだった。
そんなはずはない、という思いが胸に残った。
さらに、以前示された「私たちに貸していたというお金」の話にも触れた。
その金額が、本当に存在していたのかどうか。私には、どうしても確かめようがなかった。
自分の収入や生活状況を振り返っても、借金をしなければならない理由が、見当たらない。少なくとも、「火の車」と言われるほど困窮していた実感はなかった。
私は、その点についても疑問を口にした。一方的に示された数字を、そのまま事実として受け入れることはできない、と。
義母は、それ以上、何も語らなかった。
語れなかったのかもしれない。私の態度を見て判断したのか、あるいは、踏み込まれることを避けたのか。理由は分からないまま、会話は終わり、電話は切られた。
切ったあとに残ったもの
電話を切ったあと、私の中では、確実に何かが変わっていた。
妻に問いかけたかった。
なぜ、そんなことをしたのか。
何をしていたのか。
そこまでして、何を守ろうとしていたのか。
だが、その問いを投げかけることは、もうできない。
確かめることも、言い合うこともできない。答えを聞く機会は、永遠に失われていた。
妻たちが、実際に何をしていたのか。その全体像は、まだはっきりとは見えていない。
ただ、通帳を見せなかった理由。積立金が、いつの間にか使われていたこと。
それらをつなげていくと、私の知らないところで、何かを共有していたという事実だけが、静かに浮かび上がってきた。
どうして、そうなっていったのか。
どこから、歯車がずれてしまったのか。
その時の私には、答えがまったく分からなかった。
怒りだけではない。悲しみとも、失望とも言い切れない感情が、胸の奥に残っていた。
私の信じていた家族とは、何だったのか。
それは、どこから、どうして崩れていったのか。
答えは出なかった。
だが、この出来事を境に、曖昧なままにしてきたことを、そのままにしておくことはできなくなった。
不安は消えなかった。
それでも、向き合うべき現実だけが、目の前に残り続けていた。
